伊東 秀一

01/25 ちひろの面影

「母は左利きでしたから、私は彼女の右の肩越しに
 絵が出来上がるのをいつも眺めていました」
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60年近く前の記憶をたどりつつ語る男性は、
母の背中にくっついて遊んだ当時を話す時だけは、
まるで遠くを見るように目を細めた。
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母=いわさきちひろ。44年前に他界した世界的な絵本作家だ。
享年55。彼女の長男である絵本研究家・松本猛さんと先週、
東京・練馬にある「ちひろ美術館・東京」でお会いした。
66歳になる松本さんは、昨年末、初めて母の「評伝」を書いた。
「母の死んだ年齢を10歳過ぎて、母を客観的に見られるようになりました」。
そう言いながら、自身の著書を手に30分を超すインタビューに答えて下さった。
340ページという大冊の最後に、彼はこうも記している。
「私にとって、いわさきちひろは母であるとともに、師でもあった」。
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ことしは「いわさきちひろ生誕100年」にあたる。
「ちひろ美術館・東京」だけでなく、北アルプス山麓の「安曇野ちひろ美術館」
(長野県松川村)でも、様々な企画展が予定されているという。
是非とも訪ねたい場所が、またひとつ(いや、ふたつ)増えた。


【復元されたちひろのアトリエ(1972年当時)】
※写真は美術館の許可を得て撮影・掲載しています。