伊東 秀一

11/14 母の背の記憶

 1歳4か月の子供に、どのくらい鮮明な記憶があるのだろう。
体の弱かった男の子はその朝、母の背に負われながら、
川の土手を病院に向かっていたという。72年前の8月6日・・・。
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 2人は爆風に飛ばされ、土手の下に転げ落ちた。
背負っていたはずの男児を、一瞬の無意識のうちだったのか
母は両手で抱きかかえていたという。その風景を覚えている気がする、
と男性は言った。
「でもそんな幼い子供に記憶があるはずはないと思います。たぶん、
 叔父や叔母から聞かされた話が頭の中で像を結んだのでしょう」
と笑った。
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 広島生まれの被爆者・藤森俊希さん(73)を、八ヶ岳山麓の自宅に訪ねた。 
来月のノーベル平和賞授賞式に、受賞団体からの招待という形で出席する。
核を巡る今の状況、核兵器禁止条約に参加しない日本政府への怒り等々。
言葉を選びながらも毅然とした口調で話す藤森さんの両目が、
母君の記憶にふれた時だけは、潤んでいるよう見えた。
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 爆心からわずか2.3kmの場所にいた母と息子は、その後生き延び、
子供たちを育て上げた母は98歳で亡くなった。藤森さん自身も今73歳。
あの場で亡くなった人もいれば、母や私のように長生きする被爆者もいる。
その境目はどこにあるんでしょうね、と藤森さん。
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 来月10日、ノルウェーで行われる授賞式を前に、出席への思いを伺った
インタビューは、きょう夕方の「Face」(午後6:15~)で放送。