2006年度の取り組み
 
信州大学 人文学部 「映像リテラシー論」
10月から、信州大学人文学部の「表象芸術論」の授業で、テレビ信州スタッフが講師として「映像リテラシー論」をテーマとした講義を行います。
テレビ信州では、2003、2004年にも共通教育で授業を行ってきました。
今回は人文学部での講義となります。
第1回授業 10月16日(月) (場所:信州大学人文学部 311番教室)
テレビ信州スタッフによる授業風景
テレビ信州スタッフによる
授業風景
【対象生徒】
信州大学人文学部 2~4年生
【講師】
倉田治夫(テレビ信州常務取締役総務局長)
平坂雄二(テレビ信州取締役編成局長)
二人の講師がリレー形式で授業を進めていきます。
また、回によっては、新たにテレビ信州スタッフが加わって行います。
【授業内容】
初回はイントロダクションとして、今日を含め今後15回の授業の目的や、内容などを説明しました。
授業風景
授業風景
【今後の流れ】
10月から来年2月までの授業で、
メディアとは何か、その特性は如何なるものかを知る。
メディア、特に映像メディアから発信される情報を主体的に読み取る力を鍛える。
情報を発信する力を身につける。
ことを目的とします。
 
講義形式の授業だけでなく、ワークショップをしたり、映画や番組の内容を分析してディスカッションをしたりと、相互に意見を交換しながら進めていきます。
「映像の修辞的技法」や「活字の特性・映像メディアの特性」などを通して、映像を論理的に考えていきます。
ワークショップは、テレビ信州が事務局を務める「信州メディアリテラシー・ネット」で開発中の映像編集教材「Movie Cards」を使って、映像の編集作業について考えます。
半年間の授業の後半で映画やドキュメンタリー作品を扱います。
その際は、それまでの授業の内容をふまえて、修辞的分析を行うとともに、ジャーナリズム、報道倫理などについて考えていきます。
初回なので、正確な受講人数はまだ分かりませんが、回によっては班分けをするなどして、進めていきます。
受講した学生たちの様子
受講した学生たちの様子
第2回授業 10月23日(月)
【授業内容】
「テレビは何を伝えたか?」をテーマに、実際に放送されたテレビ報道をベースに、テレビの感覚的な特性とメディアリテラシーの必然性について。
授業風景
授業風景
カナダの英文学者であり、文明批評家であったマーシャル・マクルーハン(カナダ:1911~1989)の代表的な「メディアはメッセージである」を引用しながら「テレビとは何か」を考えました。
戦争報道、松本サリン事件の報道を通して、「テレビの特性」を検証しました。
歴代の首相を例えに「利用される」テレビ影響力を考察しました。
映像そのものには「うそ」はないが、視聴者に届く時は「現実が構成されている」点を見据えました。
学生の様子 授業の様子
学生の様子 授業の様子
メディアリテラシーの授業において、意見の「正しい/間違い」はないと思うので、今後、対話しながらの授業がより活発にできれば良いと思います。
次回は引き続き、メディアの特性について考えていきます。
第3回授業 10月30日(月)
【授業内容】
「新聞とテレビ」をテーマに、新聞とテレビをあらゆる角度から比較・検証し、「テレビの特性」を考えました。
また後半は、伊東秀一キャスターが「ニュース、テレビを伝えるということ」と題して、ニュースを伝えるにあたっての技法などを、著名キャスターの特徴の比較をしながら、講義をしました。
佐藤栄作首相(1964~1972)の退陣会見-新聞記者が退席した会場で「テレビは真実を伝える」とテレビカメラに向かってただ一人の会見-の映像を題材に(1972年6月)、新聞とテレビの伝達媒体的・情報的特性を考えました。
新聞とテレビを、社会的、経済的、時間的な面や、媒体、内容構成など、様々な角度から比較することで、テレビの特性を検証していきました。
伊東秀一キャスターが実際にテレビ出演して伝える立場から、「テレビ・ニュースを伝える」際のポイントなどを話しました。
次回は、2回目、3回目の授業内容をふまえて、さらにメディアの特性について考えていきます。
第4回授業 11月6日(月)
第4回授業風景
第4回授業風景
【授業内容】
『映像メディアとジャーナリズム』
・ 様々なメディアのデータサイズや特性の比較。
・ 映像メディアの系譜。
・ 「映像とは何か」の考察。
・ フォトジャーナリズムについての考察。
視覚に訴えるメディア(動画、静止画、文字)を、データサイズの面から比較し、更に「映像とは何か」について考えました。
視覚イメージと音声イメージとで作られた「映像メディア」の系譜を、歴史に沿って見ていきました。
実際に撮影された写真を見ながら、フォトジャーナリズムについて考察しました。
1960年アメリカ大統領選の際の「ケネディとニクソンのテレビ討論」の映像を見て、テレビがもたらす効果・影響について考えました。
授業風景
授業風景
次回は、今回の内容をふまえ、「映像の修辞学」に入ります。
第5回授業 11月13日(月)
【授業内容】
『映像の修辞学』
・ 「映像とは何か」についての復習。
・ 「私たちが事実と思っているもの」についての検証。
・ 映像の修辞技法を具体的に見る。
・ 小津安二郎監督の『東京物語』を見て、小津監督に顕著な修辞的技法について考える。
授業風景
「映像は部分の集合である」ことをふまえた上で、「事実の正体」について考えました。
映像を読み解くための基本として、映像の修辞法について具体的に検証して行きました。
映像技法の基本を、写真を見ながら考えていきました。
映像技法の基本を見た後で、小津安二郎監督の「東京物語」冒頭を鑑賞し、この映画の映像技法について、学生に意見を聞きました。
来週の授業に向けて、モンタージュの実験映像を見ました。
来週は、「モンタージュ論」を踏まえて映像作品の分析をします。
授業風景
第6回授業 11月20日(月)
授業の様子
授業の様子
【授業内容】
『映像の修辞学』
「戦艦ポチョムキン」(ロシア/1925)を鑑賞し、セルゲイ・エイゼンシュテイン (ロシア/1898~1948)の「モンタージュ理論」について考えました。
前回触れた、レフ・クレショフ(ロシア/1899~1970)の実験映像について考察しました。
モンタージュ理論とはどのようなものなのか見ていきました。
エイゼンシュテインの「戦艦ポチョムキン」を見て、映像技法について分析しました。
映像分析をベースに、「戦艦ポチョムキン」で伝えようとしているメッセージについて学生の意見を聞きました。
次回は、学生に聞いたモンタージュ技法のメッセージに関する意見をもとにして、授業を進めていきます。
第7回授業 11月27日(月)
【授業内容】
・ レニ・リーフェンシュタール(1902~2003/ドイツ)監督のベルリン五輪記録映画『民族の祭典』(1940/ドイツ)を鑑賞しました。
プロパガンダ映画として知られるナチス党大会の記録映画『意志の勝利』(1934/ドイツ)を制作したレニの作品という点にも注目して見ました。
映画の内容を分析していきました。
映画の中の「再現映像」について、また「音声の後付け」について考えました。
この映画と、ヒトラーの「我が闘争」の一節を踏まえた上で、「メディアとは現実を構成するものである」という、この授業の開始当初に触れた内容について再び考察しました。
 
・ 12月に行われることになっている河野義行さんの講義に先駆けて、松本サリン事件について考えていきました。
「松本サリン事件」について、事件が起こった当時の様子を振り返りました。
また、事件後のメディアや警察の対応について検証しました。
授業の様子
授業の様子
次回は、松本サリン事件を扱った映画を鑑賞します。
上記にもあるように、12月には松本サリン事件の第一通報者である河野義行さんによる講義が行われる予定になっています。
第8回授業 12月4日(月)
【授業内容】
『日本の黒い夏-冤罪-』鑑賞。
1994年に松本で起きた松本サリン事件。
この事件をテーマにした、熊井啓監督の作品(2000年)を鑑賞しました。
○映画を見るにあたって・・・
【1】 送り手の責任
【2】 受け手の課題
【3】 映画の伝えようとしているメッセージ
これらの点を考えました。
次回は、この課題について、学生の見方、考え方を聞いていきたいと思います。
第9回授業 12月11日(月)
第9回授業風景
【授業内容】
『日本の黒い夏-冤罪-』 鑑賞を手がかりにメディアのあり方を考える。
前回鑑賞した、『日本の黒い夏-冤罪-』(熊井啓監督/2000年)について、「送り手の責任」「受け手の責任」という視点から学生の見方・考え方を聞いていきました。
「送り手の責任」では、「第一通報者の犯人扱い」「影響力の大きさについてのメディア従事者の自覚」などが挙げられました。
「受け手の責任」としては、「情報を鵜呑みにすることがある」などが挙げられました。
その他、映画そのものへの感想としては、「不安をかきたてられる音が使われていた」などが指摘され、映像と音に関わる諸問題について発表しました。
今までの授業で扱ったテーマを、『日本の黒い夏-冤罪-』と照らし合わせて再考していきました。
 
映画の中で使われている様々の技法を見つつ、映像には、作り手の意図が反映され、構成されていることを確認しました。
初回の授業で扱った「確証バイアス」の危険性を考え、「それを回避するには・・」と考えていきました。
「沈黙の螺旋」理論(Elisabeth Noelle -Neumann)を、メディアの構造に当てはめて、「多数派」、「少数派」の存在について考えていきました。
12月13日(水)の5時間目は、補講授業として、松本サリン事件の第一通報者、河野義行さんをお招きし、体験を直接伺った上で「冤罪の構図」「報道のあり方」「映像とは・・」について考えていきます。
特別授業(補講) 12月13日(水)
『河野義行さんに聞く-松本サリン事件「犯人」にされた私-』
特別授業(補講)風景
今回は特別講師として、松本サリン事件の第一通報者である河野義行さんをお招きして、「事件当時」や「報道のあり方」についてお話を伺いました。
事件後、疑いをかけられ、「犯人」としてマスコミに取りざたされたその時の様子など、河野さんしか語れない事実をお話して頂きました。
前々回・前回、そして今回の授業では、松本サリン事件を扱った映画『日本の黒い夏-冤罪-』(熊井啓監督/2000年)を手がかりに、「送り手」「受け手」の両サイドから見ての課題について、発表してきました。
今回はその内容も踏まえて、河野さんのお話を聞く良い機会となりました。
事件発生当時の河野さんの様子や、その時の市民や警察、マスコミの、河野さんに対する扱いなど、映画に出てきた部分だけではなく、取り上げられなかった面についても詳しくお聞きしました。
マスコミによって、「河野が犯人」と取りざたされた河野さんが、その後、マスコミに対してどのように考え、どのように関係してきたのかということについてもお話して頂きました。
映画『日本の黒い夏-冤罪-』の内容と、実際の状況とを比べての感想も伺いました。
「松本サリン事件」発生から3年後にテレビ信州が制作した『NNNドキュメント'97 犯人にされた私』を見ました。 これは、事件当時を、マスコミの視点から検証した番組です。
  この中で、「松本サリン事件」発生後、退院した河野さんのご自宅で行われた記者会見の様子を見ての印象(事件当時にその映像を見ていると仮定して)を学生から聞くと、
「涙目で不安そう」
「演技をしているのではないか」
「あやしいと思ってしまうかもしれない」などの意見が出ました。
この記者会見時、河野さんはサリンの影響でまだ熱があり、体調が悪い中で行われていました。
また、会見時の映像が、河野さんの頭上方向から伏し目がちに撮られていたこともあり、 余計に自信がなさそうに見えていたのではないか、と言う考えも出ました。
今回この授業に、河野さんをお招きできたことで、学生(視聴者)、テレビ信州スタッフ(マスコミ)、河野さん(報道被害者)と3方の立場でお話し、メディアをいくつもの視点から見て、考えることができたように思います。
【河野義行さん プロフィール】
河野義行さん 1994年に「松本サリン事件」発生。
第一通報者となる。
自宅付近からサリンが発生していたことから、当時警察やマスコミから「犯人」として扱われる。
翌年、「地下鉄サリン事件」が起こり、「松本サリン事件」とともに「オウム真理教」の犯行と断定される。
河野さんの無実が明らかになり、マスコミ各社が相次いで謝罪。
2002年、長野県公安委員に任命され、3年間の任期を務める。
現在、事件当時の経験から、執筆活動や全国各地での講演活動と、多忙な日々を過ごしている。
第14回授業 1月29日(月)
第14回授業風景
【授業内容】
半年間続いたこの授業も、ついに最終回を迎えました。
先日発覚した他系列の『発掘!あるある大辞典Ⅱ』事件を取り上げ、いわゆる「テレビの嘘」について考えました。
 
学生は、「インターネット」「『お詫び』の放送」「新聞」等様々なメディアで事件を知ったようでした。
「お詫び」と「訂正」について、その違いを確認しました。
この事件から、前回まで行われていた「Movie cards」を使ってのワークショップを思い起こし、「ある映像のもともとの意味は、別の映像と組み合わせることによって全く違う意味を発生させてしまう」ことを、再認識しました。
マス・メディアの経済基盤である「広告」、また「テレビコマーシャル」について、その存在と役割を考察しました。
 
「広告の機能」について、経済的、政治的、社会的、文化的側面の役割を見ていきました。
「タイムCM」と「スポットCM」について、それぞれの特徴を確認しました。
テレビでよく話題になる「視聴率」とはどのようなものかを考察しました。
 
視聴率の高低だけではなく、視聴率と広告費の関係についても考えました。
10月からの授業全体のまとめを通して、「メディア・リテラシー」について考えました。
 
「偽の思考」や「パロティング現象」「確証バイアス」など、以前扱った内容と経験を合わせ、「メディア・リテラシー」の必要性を確認しました。
自らの読み解く力を向上させ、「見巧者」としてメディアを捉えることの重要性を伝えました。
今年度の「映像リテラシー論」の授業は今回が最終回でした。
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