2021/03/08 マエストロの涙

 アンコール演奏を終えた直後、2000人近い観客が

一斉に立ち上がって拍手する現場に立ち会ったとき、

モニター越しとはいえ、私も総身に鳥肌が立った。

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 先週末、佐渡裕さんが指揮するオーケストラ演奏会の

影アナ(場内アナウンス)という大役を仰せつかった。

"マエストロ=巨匠"の敬称を持つ佐渡さんとは初対面。

加えてソロ参加のピアニストは日本を代表する若手、反田恭平さん。

こちらは過去に何度もインタビューにお付き合い頂いた方である。

「お久しぶりです、元気でした?」

控室前の通路で目が合うと、彼の方から気さくに声をかけて下さる。

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 コロナ禍で、これまで客席入場率を50%に制限していたものを、

今回初めて100%にしての試み。私たち舞台裏のスタッフにも

正直かなりの緊張感があった。

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 舞台袖の影アナ席(写真)からは、客席が埋まっていく様子が

天井カメラのモニター映像で常に見えている。

開演5分前に座席がほぼ埋まった。こんな光景は実に久しぶりだ。

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「間もなく開演いたします・・・・・・」

このアナウンスを最後に、あとは舞台上から伝わる音と震動と熱気を

ひたすら感じ続けた2時間だった。

これを"役得"と言わずして何と言おうか。

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 終演後、バックヤードの通路でマエストロと暫し話す機会を得た。

「素晴らしかったです」

「うん、みんな(演奏者)良かったなあ」

やや疲れたように見えた佐渡さんに、満面の笑みが浮かんだ。

これから翌日の公演地である栃木県足利に向かうという。

「足利では子供たちの指導があるんです。何年も続いててね」

若い音楽家たちの話をするマエストロは、本当に嬉しそうだった。

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 帰路につくお客さんの会話が通路のドア越しに聞こえる。

「佐渡さん、涙ぐんでたね」「すっごく嬉しそうだったもの」

アンコールを終えたマエストロが、目に涙を浮かべながら

客席に向かって何度も挨拶されていたことを後になって知った。

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『今、世界がバラバラになってる中で誰かと時間を共有する、

 ひとつの空気の震動が喜びなんです。これは音楽の神様が

 与えてくれたもの。僕にはそれを届ける使命があるんです』

  【佐渡裕さん談 「news every.」インタビューより抜粋】