2020/12/09 長沼の椿

 きょうはごく私的な話を書くことをお許し願いたい。

この1年余り、足繁く通った建物が間もなく取り壊される。

去年の台風災害で1階天井近くまで泥水に浸かった1軒の住宅。

実は、私の叔父夫婦の家である。ともに80半ばを過ぎた2人は

ここに家を再建することを諦め、今は高齢者施設で暮らす。

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 秋の終わり、2人に代わって現地での住居解体手続きを終えた私に、

隣に住むMさんご夫婦が声をかけて下さった。

叔父夫婦がこの地に住んでから半世紀近いお付き合いである。

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「そう、壊すのかね。じゃあもうここには住まないんだね」

「この花、毎年よく咲いててね。私らも見るのが楽しみだったんだよ」

Mさんの視線の先には、庭先で叔母が育ててきたひと株の椿があった。

1年前、泥にまみれて葉の色さえ見えなかった樹は、

いつの間にか艶やかな緑の葉を茂らせている。

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 あの椿は今頃、Mさん宅の庭に引っ越しを終えているはずである。

叔父夫婦がいなくなった後も、冬ごとにずっと花を咲かせるのだろう。

長沼に暮らすどれほどの人たちが、長くいとおしんだ家や庭を失ったのか。

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 台風災害から2度目の師走。年が暮れる頃、あの椿を育てた小さな庭は

更地に変わっているはずである。