2020/12/27 神様に会った日

 10年ほど前のこと。ピアニストは松本市内の映画ロケの現場を訪れ、

その直後に市内のホールで行われたテーマ音楽の収録に臨んだという。

「実は"一発録り"だったんです」

そう話すピアニストは、まるで昨日の事のように嬉しそうだった。

先週のクリスマス、辻井伸行さんに初めてお目にかかった。

IMG_0734.jpg

 "コロナの年"を締め括るツアーリサイタルの最終日が信州・松本。

しかも、かつて映画音楽を収録した同じホールでというご縁。

この日、私は「演奏家が考えるコロナと音楽」というテーマで

リサイタル直前の辻井さんにお話を伺う機会を得た。

             ✤ 

 動画配信や無観客演奏など、様々な試行錯誤を経てようやく

秋頃から観客のいる場でピアノが弾けるようになった。

そのことが今とても嬉しいのだと辻井さんは話して下さった。

 そして「news every.」のカメラの前で自ら選んで弾いた1曲が

映画『神様のカルテ』エンディングテーマ(辻井さん自身の作曲)。

かつて同じホールで"一発録り"したというあの作品だ。

             ✤

 演奏時間4分14秒。立ち会った私には夢のような時間だった。

2台のテレビカメラが回るステージ上で辻井さんは、

またしても"一発録り"で収録を終えた。 

             ✤

「コロナで人同士の距離が離れてしまうけれど、

 でもせめて気持ちだけは近くに寄り添えたら。

 音楽ならそれをつなげると思うんです」  

             ✤

 2020年のクリスマス。私は音楽の神様に出会えたと思っている。